俺と初めての恋愛をしよう

「部長、コーヒーです。ブラックがお好みでらっしゃいましたよね？」
「ありがとう。覚えていてくれたのか？」

覚えていたことが余程嬉しかったのか、不機嫌さは鳴りを潜めていた。それを表情で感じ取れ、今日子は、内心、ホッとした。

「部署では、自由に飲みたい時に入れています。コーヒーは私が落としていますが、今日だけ、お持ちしました。では」
「分かった」

今日子の仕事は事務。担当は、部署での雑務を一気に引き受ける。パソコンで書類の整理やデータ処理、会議書類の作成、コピーや休みの申請など、多岐にわたるが、難しい仕事はない。部署の中で庶務をこなすものが、今日子ともう一人、新入社員の男性だが、性格もあるのか、細かい仕事は苦手なようで、今日子の負担が増える。 残業手当の為進んで引き受けることしている。すべてお金の為。昼食もお弁当を作り、外食は滅多にしない。社会人になってから独り暮らしを始め、貯金のためには実家でくらしたほうがいいのだが、一人になりたいのと通勤時間を考えて現在の暮らしを選んだ。
　今日子には、妹が一人いるが、今日子とは正反対の顔をしている。面長だが小さめの顔に筋の通った鼻筋、小さい口に薄い唇。ぱっちりとはいかないが、二重の目。体型は似たり寄ったりだ。
　今日子はというと、卵型の顔に腫れぼったい二重、厚い口びる。鼻は低い。体型は短い脚、体重は標準だが、筋肉のない体つき、胸はわりと大きくＣカップだが胸の形は嫌いだ。とにかく、親を恨むくらいどこも好きなところはない。
と思っているのは、今日子だけなのだ。
鏡を見ると、このようにうつっていると思い込んでいる。これはもう病気だと思うが、精神的にどん底まできているわけでもなく、ごく普通に暮らしている。