「……ちなみに俺ならコレに…一つ加えるな。」
ニヤリと笑って。
三つ目の言葉を……
書いていく。
『後ろも見ろ』。
「……お前らが突っ走る傾向にあるのは…この1年で嫌って程わかった。前ばかり見て、真っ直ぐ突き進むことは…悪くない。むしろ、そうであって欲しいと願う。」
………。
不器用なオトコね。
新見先生の言葉に便乗したフリして、ちゃっかり自分の思いを……伝えているじゃない。
「でも…、それが正しいかどうか、だ。たまに振り返ってみろよ。自分が歩いてきた軌跡には、幾多の分かれ道が……あったはずだ。本当に…間違ってなかったか?過去に出会った人達に何かを言われなかったか?あの時はどうしていたか…、悩んで、躓いて、時には戻って……、やり直すことだってできる。そういう不器用さもあっていいと…思うんだ。人の痛みがわかる奴らだから…、なお、そのままでいて欲しい。今を……忘れるな。」
今を………忘れるな。
忘れられる訳……
ないじゃない。
曲はちょうど……1番が終わろうとしていた。
ニシハルは教室の外へと赴くと………
何かを抱えて。
再び……私達の前へと現れた。
「エッ、バイオリン?!」
「何なに、ニシハル弾けんの?」
なんと…、バイオリンを抱えたニシハルに。
みんな驚きを……隠せない。
先生がそんなものを持っていたなんて……
私だって…知らない。
長くしなやかな指はしっかりと弓を握って。
ピアノの美しい旋律を追いかけるようにして…
繊細な音を奏でていく。
「………やば、カッコイイ!」
女子の黄色い声で騒ぎ立てるのを、
「……し~っ……。」
私は……静かに制す。
流れるように……そこから音が溢れ出し、
緩急つけた情感豊かな演奏に……
心を……奪われていく。
照れ隠しなのかは…わからないけれど。
彼はずっと瞳を閉じたまま……
弓を上下へと滑らかに…滑らせていた。
最後の一音は。
長くビブラートを持たせて………、
その響きが消えてもなお……
余韻を……残していた。


