「……お開きだな。」
久則が、「よいしょ」と宏輔を背中に…担いだ。
「こやつと言わんとしていることは…、わからんでもない。」
「…………?」
「可能性…、か。なる程……。」
「………久則…?」
「まだ早いが…、お前に餞の言葉を贈ろう。」
「……………?」
「世には…こんな前向きな言葉もある。『七転び八起き』、『一発逆転』。例え間違えて後悔しようと、どん底になろうと……、可能性はゼロではない。再起のチャンスはまだどこかに転がっているものだ。」
「…………。まるで私が受験に失敗したかのような…言いようですね。」
「……勉学の話ではない。」
「…………?」
「…お前がこの老いぼれの言葉を聞き入れるとは思えんが……、少なくとも長き人生に渡る経験論と言えよう。」
「…………。」
「……宏輔に感謝するんだな。コイツが今だ独身なのは…お前によく似ているからだ。」
「…………似てる?」
「だからこそ…、放っておけないんだろう。この…、腐れシスコンが。俺がこやつの親だったら…、間違いなくさっきお前に言ったその言葉でケツを叩いてやった所だが……、如何せん、人のことを言えたものかとあの世からトモヨに説教されそうだからな。ここまでに…留めておこう。」
「……………。」
「まだ十代。取り戻せるものは…沢山ある。歳をとればとるほどに、手遅れになるぞ。……どこかで…覚えておくと良い。」
「………。」
「…さて。こやつを寝かせてくるか。若い衆ももうお開きにせい。明日が…来るぞ。」
久則はそう言い残して…、宏輔の大きな体を引きずるようにして歩いて行った。
「……お義父さんが真面目に語る所…、初めて見たわ。」
母上はくすりと笑って……、
テーブルの上に横たわる黒ひげ殿を指先でコロンと…転がす。
「私はアナタが選んだことが、間違いだとは…思わないわ。」
「…………?」
「それがその時のベストだと思ったんだもの…。仕方ないじゃない?」
「………。はい……。」


