恋はいっぽから!





「…多分どこかでまだ信じていたのかもしれない。彼女が…ハルに会いに来るんじゃないかって。」



「…お母さんには…会えたのですか?」



「………。」



彼女は首を横に振って。

目を……伏せた。



長い睫毛に、小さな水滴が…滲む。




「………。会えたわ。一度だけ。」



「…………。」



「…高3になってすぐに…ハルのお父さんが入院して、それから少しずつ彼の様子が…おかしくなっいった。休むことがなかった部活にもロクに来なくなって、病院を行き来する生活をしていた。」



「病気……?」



「…ええ、肺を患っていたみたい。」


「…………。」


「……お母さんが病院を訪れることはなかった。もちろん、ハル一人で対応なんてしきれないから、叔母さんがお父さんの面倒を見ることになったみたいだけど……、ずっと、浮かない顔してたっけ……。その時に…ふと思った。ハルが女の子に対して深入りすることがないのは……、母親のことが起因しているんじゃないかって。一向に顔を見せることのない母に……裏切られたと感じていたんじゃあないかって。それが根底にあるから…。」



「…………。」



「…私が何とかしたいと思った。関係を崩したくなかったけど……放っておくこともできなかった。少しでも、彼が抱えるものを…楽にしたかった。たったの17歳で誰にも頼らず生きていくなんて……どれだけ辛かったんだろう。私が近づいた瞬間に……、一気に仮面が剥がれていったわ。」


「…………。」



「……何とかしたかったのに、何もできないことが歯痒かったけど……。彼が受け入れてくれたから、できるだけ側にいるようにした。それだけだったけど、確実に、彼との距離は近づいていて…。それが…嬉しかった。誰も知らない彼の弱い部分を私だけが…知り得たのは、ハルが私を…信じてくれたからだった。」



「…………。」




私の…知らない先生。


強くて、

温かくて、


ちょっと意地悪なニシハルの……




たまに見せる寂しそうな顔。


その意味を知っているのは……



彼女だけ。


彼女だけなんだ……。