「ハルの母親は…彼が小さい頃に逃げるようにして家を出て行って……、それからハルは父親とずっと二人きりで暮らしてた。彼のお父さんって厳格な人で…私も会ったことがあるけど、無口であまり愛想よくもなかったかな……。中学校の教師をしていて、サッカー部の顧問もしていた。」
「………。」
「…口を開けばサッカーのことばかりだって、よくハルが言っていたわ。ハルも小さい頃ずっとサッカーをしてきて……、私が出会ったのは、マネージャーとしてサッカー部に入部した時だった。」
紺野先生は、話しながら昔を懐かしむようにして――…
時折目を細めては、小さく微笑んだ。
「めちゃくちゃサッカーが上手くて、頭も良くて、おまけにあのルックスだから…目立たないはずもなくて。入学早々…女の子にはモテてたわね。とにかく常に彼女がいて、その彼女がよく練習を見に来たりもした。でもすぐに別れちゃうから……相手はコロコロと変わっていたけどね。」
「…………。」
遊び人…だったのかしら…。
なんだか、頷ける話だわ。
「…私が彼を好きになったのは、どこか適当に見えるけど……、ちゃんとここぞって所では誠実に、真面目に向き合うことを知っていたから。いちいちムカつくくらいに言う言葉は的を得ていて……、頭に来ることも多かったけどね。」
「…………。」
「けど、『彼女』になってしまえば、いずれ別れが来てしまう。私はそうはなりたくなくて…もしかしたら、一番おいしいポジションにいたのかもしれない。……『仲間』。サッカー部の一員として、クラスメイトとして、できる範囲でずっと側にいようと気持ちを隠してきた。そうすることで……、彼も私を女としては見なくて、その分気兼ねなく構ってくるようになって、少しずつだけど、家庭のこととか…彼の内面的な話もしてくれるようになった。」
「………。例えば、それは……?」
「………。お母さんのこととか。淡々とは話してはいたけど、それって一種の自己防衛で……。そうでもしないとやっていられなかったんだと思う。お母さんを恨んでいるとかそういうことは一切なかったけど……、でも、『いつか迎えにくるから』って妹さんだけを連れて出て行ったそのことだけ……。彼の中で鮮明に残っている唯一の記憶を…話してくれた。」
「…………。」


