恋はいっぽから!






「…オハヨウゴザイマス。」




朝一番……。






出くわした近所のおばさんに、朝の挨拶をする。





天気予報は…晴れ。


既にジカジカとした痛いくらいの陽射しが、私の頭上に降り注いでいた。




「あら、一歩ちゃん。制服なんて着て…、今夏休みなんじゃあないの?」




門の前に打ち水を撒くその手をピタリと止めて。

おばさんが…顔を上げる。




「…ええ。ですが、夏期講習に参加してるので……。」



「………。一歩ちゃんてもしかして…」


「ハイ。受験生です。」



「…アラやだ。もうそんなになったのねぇ。どうりで顔つきも雰囲気も大人になった訳だわ!」



な、なんと……!


「……大人の色香がついに……!」



「宏輔くんの後ろばかりついて歩いていた頃と比べちゃあそりゃそうよね。」



…………。



比べる対象が余りにも幼いわ。




「……そっかぁ…、一歩ちゃんは優秀だって噂だから…、もちろん大学に?」



「……はい、多分。」


「相変わらず悠長だねェ~?まだ決めてないの?」



「…はあ、まあ。」



「ウチの馬鹿息子なんてのんびりし過ぎて2浪もしたから…、早めに本腰入れた方がいいわよ?」




「…………。」



「…って言っても出来が違うから、心配ないと思うけど……。」



「……いえ…、やっぱりそうですよね。」







改めて第三者から言われると…堪えるものだわ。



やはり世の受験生たるもの、この夏こそが勝負時であり……、


自分の行く先なんて、とっくのとうに決まっているものなのね。





「……どうしたの?一歩ちゃん。」








「………。ちと、コレを拝借。」







私はおばさんの手から柄杓を奪うと……







「………喝ッ!!!」






ひと杓子分の水を……



頭から被る。






「…一歩ちゃん?!」




「……。頭を……冷やしました。」




「…………?!」




「ありがとうございました。では…、わたくしめはこれで…。」




桶へと柄杓を戻して、


それから、髪の毛からぽたぽたと水が垂れ落ちるのをハンカチで拭って。


私は……踵を返した。