叔母に頼んで、親父の顔を見に行くことにした。
とはいえ……、会えばきっと、憎まれ口を叩かれるだろうと…半ば構えたまま。
カラカラと小さな音を立てて…病室の戸を開く。
薄暗い部屋。
日はとっくに…暮れていた。
カーテンの奥から、
「何しに来た!」
と、予想通りの罵声が…
飛ぶ。
「……聞いたんだろう?あいつはいつもいつも余計なことばかり……。」
「は?何の話?」
わざと…惚けてみる。
「………。髪を……切ろうかと思ってな。入院続きで、頭が…痒くなるばかりだから。」
さっきの覇気は…どこに行ったのか。
呼吸を整え、ゆっくりゆっくりと……言葉を綴っていた。
「………。いいんじゃない?どうせなら、スキンヘッドにしろよ。ますます…ハクが出る。」
俺は……勢いよく、カーテンを開いた。
「………。」
いつぶりかに、起きている親父が……そこにいた。
ガタイの良かった親父の体が……
ひと回り、小さくなったかのように見えた。
『ハクがつく』だなんて…どうして言えたのだろう。
「…スキンヘッドか。頭の形には……自信がある。」
ふと……
奴が笑った。
ひとつも…笑えなどしないのに。
「ハゲ親父か。…見物だな。」
奴の精一杯の笑顔に……
精一杯の冗談で、応える。
「一時退院できそうなんだろ?」
「……ああ。」
「家に来るんだろ?」
「その前に…行く場所がある。」
「………?」
「一度くらい、決勝の舞台を…見てやってもいい。」
「…………。」
叔母に聞いた一時退院の日は、
サッカーの県大会決勝戦が…執り行われる日。
「………。老体にムチ打ってどうするんだよ。隠居しろ。」
「……その老人に敵わなくて、泣いておもらししたガキに…言われたくねえな。」
……いつの話だよ。
「………勝手にすれば。」
「ああ。そうする。」
親父と憎まれ口を叩き合ったのは、
これが……
最後だった。


