「ただいまー……。」
この日、真っ直ぐに帰宅した私だけれど……
母も、久則も、みな家を留守にしていた。
リビングに座り……
ぼうっと宙を眺める。
ここにさえ。
先生との思い出が…溢れている。
私はコルクボードにちらりと視線を移す。
『I love you !』
先生が広告の裏に書いた、愛の言葉。
あの日と変わらぬまま、そこに貼られているのに……。
彼の心は……
変わってしまったのでしょうか。
私は画鋲を外すと……広告紙を手にとって、じっとそれを…見つめる。
「もう…必要ありませんね。」
破り捨てようと、上部に切目をいれた所で……
「…………。」
ポトリと涙が…零れた。
それはちょうど紙の『love』の部分に落ちて……。
「あ……、滲んでしまうわ。」
慌てて、手で拭ったけれど。
油性ペンで書かれた文字は滲むことなく、ハッキリと存在していて。
ただ周りに染みを作っただけだった。
捨てることはたやすいこと。
綺麗なままとっておくのは……
難しいこと。
先生との思い出は、果してその両者のどちらに…………?
「まだ……思い出にすらならないわ……。」


