「一歩。俺のことはどうでもいい。けど、お前を侮辱する奴は…俺が許せねーな。」
長南殿が…相手の胸倉を掴む。
「早く行けや。もう一歩に用はないだろ。」
……と、その時。
王子の拳が…長南殿の頬に思い切りヒットする。
「……長南殿!」
私の声を遮って…
「アンタは黙ってろ!」
今度は長南殿が相手に殴りかかる。
なんてことに……!
「…やめて下さい、長南殿!あなたがこのような者の為に…傷つくことも、手を汚す必要もありません!放っておけばいいのです!」
必死の叫びも……
届かない。
二人は一旦身体を離すと…肩を上下させながら、荒く呼吸を繰り返す。
膝に手をおいて、劣勢なのは王子の方かと…思われた。
眉をつりあげ、
眉間にシワを寄せて、
見たことのない表情を浮かべた長南殿が…
そこにいた。
唾を吐く、その色は……
赤。
私は慌てて彼に駆けつけて、ハンカチで口の端についた血を…拭う。
「…帰りましょう、長南殿。意味のない争いはもう……」
「『意味ない』……?」
いつもよりも数段低い声ー……。
私の手を、『パチン』と弾く。
「……長南殿…?」
「……意味…ないわけないじゃん。今までだって、これからも…、一歩に何かあるっていうなら、俺は無関係ではない。もう後戻りできない。『友達』の域越えちまったら…抑えようがないんだ。」
「……え…?」
ふと……
長南殿の視線が、こちらへと向けられたほんの一瞬……だった。
「……長南殿!!!」
私は……
両手を広げて、長南殿の前へと身を滑らせた。
側頭部に走った、大きな衝撃……。
身体が傾いて…
スローモーションのように、ゆっくりと流れてゆく景色……。
「………!!」
酷い痛みが、コメカミから全身へと伝わる。
「………?今…なにが…」
ゆっくりと…目を開ける。
「………?イタ…。」
右手でそっと……コメカミに触れる。
「……………。」
ヌルリと気持ち悪い感触。
その手を、目の前へと持って来ると……。


