長南殿は勢いよくベンチから立ち上がると……
私の正面へとまわり、そのまましゃがみ込む。
「これは…逃げじゃない。ニシハルしか見えていなかったアンタの視野が…広がっていくきっかけになりゃあいい。」
上目遣いの大きな瞳が、逸らすことを許さなかった。
「…愚痴を聞かせてもらえんなら、聞くよ。ますます一歩を知ることができる。」
「………長南殿…。」
「さっきも言っただろ?…『どうにでもする』って。俺はまだ高校生だし…なんの力もないけど、その分、気にしなきゃいけない『立場』ってもんもない。教師である以上…あいつにはできないことも、俺にはできる。全力で…アンタだけを守りぬける。」
「…………。」
彼は私のローファーを脱がせると……
まだ痛むかかとに、一本の指でそっと触れた。
「痛…」
「…そりゃそうだ。これは、アンタが駆け抜けてきた証拠なんだから。」
彼は自分のポケットを何やら手探りすると…、
「…あった。」と小さく呟いて、その手に何かを握りしめたまま…
私の目の前に、翳した。
「その傷を、少しでも癒すのが…俺かな。」
長南殿が拳を開くと、そこには一枚の絆創膏。
「俺さぁ…、兄弟多くて、しかも年も離れてて、けっこう面倒みたりしてるんだ。」
「……。そうなんですか。知らなかったわ。」
「…うん、初めて話すな。…でさ、これがまたよく怪我するチビばっかりで、こうしていつもどこかに絆創膏を準備してる訳だ。一種の習慣っての?」
「なる程、随分用意がいいと思ったら……。」
大きな手が、器用に絆創膏を剥がして…
私の踵に貼り付ける。
そのまま…。
長南殿の温かい掌に包まれていた。
「俺はさ……、三船一歩が好きだよ。」
「……え?」
今……
サラっと何を……?
「アンタの傷口をいつでもこうして…被ってやるよ。」
「…………!」
「……でも……、傷つくのを見たくない。見逃したくもない。なら、どうしたらいいかって…答えはとっくに見えてた。」
「え……?」


