「そういや昨日は…例の先生に、ちゃんとジャケット返したか~?」
「ええ。お会いできませんでしたが、ちゃんと机の上に置いてきたわ。」
ジャケットのことまで…
知っていたのね。
あら……?
もしかして、一部始終見られていた?
と。いうことは……。
あの、熱烈キッスの瞬間まで……?!
「そりゃあイチャイチャできなくて残念だったなぁ。」
「いいえ。学校ではちゃんと立場を守っていますから。」
「『学校では』ね……。」
「…………。」
「俺でさえ唇にチュウはしたことないのになあ……。」
「………!前、向いて!散漫してるわ!」
「……ハイハイ。こっちに戻ってきてから俺はずっとこんな調子だってのに……。お前は呑気だな。」
私に伸びてきた大きな手が……
遠慮がちに、頭を撫でては……
離れていった。
宏輔がこんな困った顔をするなんて。
……初めてだった。
「…ところで。いつまで三船家に滞在するのですか?」
「ああ、それは…住まいが決まったら。」
「えっ…、まだ住むところが決まってないとは…。」
「『部屋が余ってるからしばらく家にいればいい。一歩が喜ぶから』…っておじさんに言われてさ。その好意に甘えさせてもらったんだ。」
「……そうだったのですね。」
宏輔が帰国する度に……
跳びはねて喜んでいたのは…私だった。
親父殿……、何だかんだ言いながら、私を気にしてくれているのね。
「…なのに…、おかしいよな、喜ぶどころか浮かない顔ばかりしてる。」
「………?!そ、そんなことはないわっ!もう、この上ないくらいに喜んでいるではありませんか!」
「……去年まではな。」
「…………。」
また……、
困った顔。


