「さ、猿楽先生……黒岩くんが、私をいじめるんです……た、助けて下さいっ……うっ、恐いよぉ……」


猫を被って、おとなしくてか弱い女子生徒を演じてみる。


今時こんなヤツいるか? ってくらい可愛い声で言って、


ポロポロと涙を流して見せた。


クラスのみんなは、ギョッとしたように私を見る。


猿楽先生は、女子生徒に頼られたからか、顔を赤くしてゴホンと咳払い。


「は、はぁっ!? こ、この女……!」


黒岩に睨まれているのは、気が付かない振りを決め込む。


「はいはい、黒岩。お前、取りあえず職員室に来ようなー?」


黒岩が猿楽先生に連れて行かれるのを見た私は、そこで嘘泣きを止めて溜息を吐いた。


……この教室の空気は、どうしたものか。


「キト、そんなに可愛い一面もあったなんて……っ」


涙を浮かべるミナミに、「何が言いたい」と言いたくなるのを堪えて、先に言うべき重要なことを言う。