「それからは、葉月君に会った時と同じ。

音楽に触れることなく、高校に入って

時鶴とまた同じクラスになった。」

時鶴が近くに居てくれて良かった。


『奏乃っ!』

もし、時鶴が居なかったら。

私は今

ここに立っていないかも知れない。


『大丈夫。あたしはここに居るよ。』

親が居なくなった時も。

鈴が居なくなった時も。


真っ黒な瞳を真っ直ぐに見てくれたのは

時鶴だけだった。


「ごめんね。こんなに暗い話…。」

けど、

不思議と話せたことにホッとしていた。


葉月君になら、話せる気がする。

そう思ったのは、

嘘じゃなかったみたい。


「私は、"ケイ"だったよ。」


「……。」

葉月君は、黙ったままだ。


「……不思議。

音楽に関わりたくなかったのに、

葉月君達の歌は心地が良くて、

音楽から顔を背けることを忘れてた。」

見紛う程の美しい容姿。

それに釣り合った何とも美しい歌声。


「葉月君達の歌は、とても綺麗だった。」

これは、私の本当の声。


「……鈴は、

本当にそれを願っていたのか?」


「……え…。」


「鈴が、カナに願ったのは、

本当にそんなことだったのか?」


「………それは…。」

つい最近までは、そうだと信じていた。


けど、

今私の鞄の中に入ってる手紙のせいで、

私の考えが正しいのか、

分からなくなった。