「私は知盛兄上と共に山科(ヤマシナ)へ向かいます」

重衡が戦支度をしながら輔子に説明する。

「他にも、おじ上方が宇治橋や淀路(ヨドジ)を守備されるのでご安心なさい。絶対に源氏を都に入れさせはしませぬ」

「…女とは、このような時、口惜しいものでございます。待つことしかできないなど…」

自分も何か役に立ちたい。

そんな妻の悔しそうな表情に、重衡は穏やかな口づけを送った。

「女人は守られることが役目ですよ。守りたいものがなければ、男の戦意は喪失してしまいます。ですから、貴女は守られていればよろしいのです」

「……はい」

赤くなり恥じらって俯く花にもう一度口づけを捧げると、重衡は屋敷を出発した。