〈過去③〉


 季節は巡り、とある初夏の日。

清盛による福原への都遷(ウツ)しが行われた。

もちろん輔子も重衡と一緒に福原へ赴いた。

そこで新たな住居を構え、これまで通り何事もなく暮らしていくものと思われたが…。


「兵衛佐殿(ヒョウエノスケドノ)が挙兵!?一体どういうことですか!?」

輔子は夫からの不穏な話題に目を丸くした。

「どうやら、平家一門を快く思わず、我らを朝敵と見なしたそうです」

兵衛佐殿とは源頼朝のこと。

東国にいた彼は大軍を引き連れて、京に向かっているという。

平家一門を討つために。

「そんな…」

輔子の浮かぬ表情に、重衡はさらに追い討ちをかけた。

「こうなると、私もいつ兵を率いて軍場(イクサバ)に出陣することになるかわかりませぬ」