わたしのピンクの錠剤

 
今日は珍しく親父の機嫌がいい。

そう言えば、親父の笑い声なんて随分聞いてなかったような気がする。


親父の顔を見る。


わたしのことが、負担になってるのかもしれない。

ふと、そう思った。


「どうして、医者をやめたの?」

下がっていた親父の目尻が上がったような気がした。


「医者ってのはホントきつい仕事なんだ」


親父は思い出すようにゆっくりと話す。


「お父さんは産婦人科だったから、特にな。夜中だろうが、何だろうが、いつでも呼び出しがかかってた」


「そんなんじゃ、赤ちゃんを育てられないもんね」

「バーカ、気を遣いすぎなんだよ。否定はしないけどな。でも、それで良かったと思ってる」

「だけど、どうして大工さんだったの」


「あいかが生まれて1年間、仕事は何もしなかった」

「まぁ、育児休暇だな。さすがに1年も経つと貯金も底をついてきたし、仕事をしようと思ったんだ」

「だけど、そんなに都合よく、いい仕事なんてありゃしない。そんなとき、陽子さんに会ったんだ」