「あるDID患者の交代人格と話していて気付いたことがあったんだ。その人格の音楽の趣味が年齢にふさわしくないレトロなものだったんだ」


「ああ、好きな音楽でその人の年代がわかりますもんね」

「そうなんだ。でも、その時にはまだ、事の重大さに気付いていなかった。つまり、その交代人格がその患者のおばあさんなんじゃないかってね。でも、そういう観点で接してないから、確証はないんだ。そして、もう調べようがない」

「その人は?」


「ああ、自殺した」


わたしは黙って二人の話を聞いていたが、おもわず唾を飲み込んだ。


「ま、待ってください。もう、いいでしょ」

親父がさえぎると先生はわたしを見た。


「あいかちゃんも知らなくていいんだね」

わたしは首を横に振るしかなかった。