「騙されるな」
(えっ、なに?)
ほんの一瞬のことだった。
でも、確かに達哉の表情が変わった。
なに?
今のは誰?
達哉じゃないの?
突然、達哉のくちびるが引きつりだした。
まるで、くちびるの端を釣り糸で引っ張るように。
目はカッと見開き、指をギクシャクさせる。
そして、操り人形のように手をぎこちなく上げていく。
次の瞬間、達哉は自分で自分の首を絞めた。
「な、なにするの」
達哉は歯を食いしばる。
悲痛な形相。
私は反射的に達哉の手を引き離そうとする。
でも、その手は堅く、離せない。
「やめて。お願い、やめて」
今まで首を絞めていた右手が正気を取り戻し、首から離れた。
そして、その右手は首を絞め続けている左手をつかんだ。
プルプルと震える左手の指を一本一本、首から引きはがしていく。
全ての指を引きはがした時、達哉は勝ち誇ったような顔を見せた。


