「私が誘拐されたって、どういうことなんですか」

そばに付き添っていた茜さんは心配そうに私を見る。


「あの日、私たちはパニックだった。あいかちゃんが生まれたことさえ知らなかった。重体だと聞いていた愛子が死んだと知らされたのが翌日。赤ちゃんを残したらしいと聞いたのが翌々日だった。一週間が経ち、私たちに知らされたのは赤ちゃんが行方不明になったという事。そして、もう一週間が経つと、小田という医者も行方不明になっている事がわかった」


「違うんです。誘拐じゃないんです」

私は耐えきれなかった。

「親父にすれば仕方なかったんです。親父は愛子と愛し合って私が生まれたって言ってました。ごめんなさい。でも、私といっしょに暮らすためには無理矢理でしか他に方法がなかったんだと思いますです」



茜さんは何か言おうとしたが、言葉を飲み込んでしまった。

おばあさんが茜さんの言葉を引き継いだが、その口は重かった。


「小田も被害者なのかもしれないね」

茜さんも頷いた。


「愛子にかかわったばっかりに医者をやめることになり、挙げ句が誘拐犯だもんね」