「あいかさん?」

私は頷いた。

怖い人を想像していたが、にこやかに接してくれた。

その人に導かれるがままに助手席に乗り込んだ。


「本当は駅まで送っていくだけのつもりだったのよ」


私は前を向いたまま、黙って聞いていた。

「私、達哉の妹で茜といいます。疲れたでしょ。お腹すいてない?」

「いえ、・・」


てっきり、新しい奥さんとばかり思っていた。

妹さんと聞いて驚いた。


「新幹線できたの?」
「いえ、高速バスです」

「いくつになるんだっけ?」

私は何と言ったらいいか悩んだ。
ちょっと間があいたと思う。

「11歳、です」

「そっか、もう11歳に・・なるのよね」


その声はうわずっていて、涙声に聞こえた。

私は驚いて、茜さんを横目で見た。

茜さんは涙をこらえるように、口に左手を強く押しあてている。

私には何がどうなったのか、わからなかった。


 9歳って言うべきだったの?

茜さんはブレーキをかけ、車を止めた。

「ごめんなさいね」

「大丈夫、ですか」
「うん、もう大丈夫。でも、早いもんだよね。もう、11年になるんだね」

茜さんは感慨深げにそう言うと私の方を見て頬笑みかけた。

私は茜さんをこんなに悲しませる愛子の亡くなった事故のことをぼんやり想像していた。