「君は、傷つくのが好きだと見透かそう」
「自慰の単語はどこいった」
「私にとって、人間の自慰も自傷も同義語なのだよ。どちらも、己の体を相手する“一人遊び”だ」
「辞典でも必要か、お前は……」
まったく違うじゃないかと、近場にあったナイフを手にする。
「自傷も、自慰も、どちらも利き腕で“する”ものだがね」
ナイフを持った手は右手だった。何てことはない、“する”に当たって無意識に動いてしまうのは利き腕なのだから。
「そうして、己が体に“刺激”を与える」
「その“刺激”は、まったくもって別物だろうに」
ナイフを左腕に当てる。ヴァイオリンの弓でも引くように、何の躊躇いなしに刃を滑らせてみたが、左腕は無傷だった。


