瑞穂は首を呆れたかに傾けてから・・
クスっと・・意地悪く笑った。


「生きてるわ、何とかね・・?」

「・・・・。」

「お陰で体にガタは来たけど・・会社で云う
内勤になって私としてはホッとしてるの。」



あたしの、
一度上がった両肩が一気に下がった。

安堵した様子が伺えたのか
瑞穂はまた笑って目を伏せている。


「・・・女関係がハデだって云うのは
有名だったから・・弱みになるのは勿論
巻き添えにはしたくなかったのよ・・。」


何時・・家に帰って瑞穂と顔を合わせ、
会話し、彼女を抱いているのだろうと
当時あたしは彼に訊ねたいぐらいだった。

頻繁に部屋に来ていたから・・。


「貴方の事・・彼から良く聞いていたわ。
全く欲がない・・変わった愛人だって・・。」


瑞穂は煙草に火を着けると、以前より
短くなったワンレングスをスルリと耳に
掛けて嘲笑らしきものを浮かべてる。


「貴方から、誕生日のプレゼントに
チタンのブレスレットを貰ったって
彼・・凄く喜んでたのよ・・。」


「・・・・。」


「で・・、なぜ自分の誕生日には
石焼鍋セットをねだったの?  フフッ」


そ、そんな事まで!!?
本妻にドコまでオープンに話してンのよ!

あたしは思わず、カァーっとなって
正座してたワンピの膝を鷲掴んでしまう。



「・・・ビビンバが好きって・云ってたから・・
作ってあげようかと思って・・。」


「・・・・ふふ、・・そう・・・ふふふっ・・。
野菜嫌いだし、苦労したでしょ。」


煙草を持ったまま額に手を当て、
クスクスと笑っている。


「あ・・ええ。」


そんなに笑わなくたって・・。

目尻を人差し指で拭い、
やっと真顔になろうとするのだ。


「だから・・貴方は特別だったんだ。
晴れ姿を見届けたかったってワケね。」

「・・・。」


別れて一年後の・・製菓学校の卒業式だ。
まさか、知っていたなんて。

よもや、彼が観に来ていたなどとは
思いもしなかったのに・・。


「で・・、さっきの"あれからずっと"って・・?」