「え? 匠くん?」 職員室にいた数学の教師にまず尋ねてみた。 短髪で細身の男性教諭は、次の授業の支度をしつつ応える。 「彼は優秀ですよ。テストでも常に満点に近い成績を──」 「ちょ、ちょっと待ってください」 「はい?」 「近いって、満点は無いんですか?」 「彼は面白い生徒でねぇ~」 必ず1問だけ間違える。 「へ? なんで」 「さあねぇ。きっと気が向かないんだろう」 え、それだけ? 志保は笑って部屋から出て行く教員の背中を眺めた。