「……そうですか」

「少し見えたから、言ってみただけなんだけどな」


俺の発言に春矢君は目を丸くし、そして綺麗な笑顔を浮かべた。

同性であっても、その笑顔はとても綺麗だった。

普段からこんな風に笑えば良いのに。


「……似ていますね、本当に」

「誰に?」


彼が答えを告げる前に、彼は俺を見て目を見開いた。

正確には、俺の後ろに居る人物を見てそうしたのだが。


「誰と比べている、ハル」

「……っ。
申し訳、ありません」


その場に、ふわりと雪の結晶が舞った。

ゆっくりと振り向くと、其処には黒いローブを纏い、片手に輝く刃を持つ男が居た。

その男は、フードを取り外していた。

見れば見る程不思議に思う。

こんなにも似ている人間が、世の中には存在しているのかと。

春也君と秋子さんとは違う。

今の俺の視線の先にいる彼は、どう見ても俺なのだ。

聞きたい事が沢山あったはずなのに、どうにも目の前に居ると言葉が上手く紡げない。

だが彼は、俺の事情なんて知った事ではないというかのように春矢君に一方的に告げる。


「俺は、俺だ。
他以外の誰でもない」

「……申し訳ありません」

「アキはどうした」

「……別件で動いています」


目を逸らして呟く春也君に、冷たい声音で彼は言う。


「二度と俺とコイツを比べるな。
そして……」


冷たい瞳で俺を睨んだ彼は、俺の横を通り過ぎ、春矢君のブレザーを手に取った。

シャープペンシルの突き刺さったブレザーは宙に舞い、何故か俺に向かって落ちて来た。

春矢君が吐血した程に危ない代物を、何故丸腰の俺に投げるんだ。


「……!?」

「邪魔だ」


慌ててブレザーを避けると、景気の良い音を立てて落ちた。

ソレをマジマジ見ると、何故か廊下が抉れていた。

…………当たらなくて良かったと思った瞬間だった。

安堵を浮かべた後に彼に文句を言おうと顔を上げると、空中に赤い液体がスローモーションで舞って見えた。

聞くからに不吉な音を立てて落ちた液体は、廊下を赤色に染めた。

黒いローブが靡き終えた後に見えた光景は、先輩方が赤色に染まった廊下にぐったりと横たわっていたものだった。


「な……んで」


青白い顔を浮かべ横たわる先輩は、もう目を開けようとも動こうともしない。

どう見ても完全に、死んでいた。