……初対面なのに、何を話せば良いのやら。
春矢君は未だに窓の外を見ている。
秋子さんに至っては果物のバスケットの中を弄って林檎を取り出していた。
とりあえず何か話題を探そうと口を開いた瞬間、春矢君が物騒な言葉を呟いた。
「よく、射殺されなかったな」
「…………はい?」
聞き間違いか冗談だろうと無理矢理納得したかった。
だが秋子さんがいつの間にか俺の左耳の方へやってきていて、囁いた。
「君は凄く運が良かったんだね。
病院なんて医療ミスでも誤投薬でもそれなりに適当な理由付けりゃ簡単に殺せるんだよ?」
「あの、…………え?」
「彼を生存させる理由は、『あの人』が望んでいるからか?」
俺を置いてけぼりで何故か彼等の会話は進んでいく。
勿論物騒な言葉に拍車をかけながら。
未だに窓を見つめながら呟く春矢君に、能天気な声音で秋子さんは言う。
「彼は『あの人』にとって邪魔だよ?
今からでも間に合うよ、大丈夫大丈夫」
その言葉の後、何かが擦れる音と首元に冷たい物体を感じた。
驚いて下に視線だけ向けると、銀色の刃物……果物ナイフが俺の首元に当てられているのが目に入った。
俺はもしかしたら刃物を向けられる手相の持ち主にでもなったのだろうか。
最近は特に刃物に縁があって、正直いつか死ぬのではないかと思う。
「あんま驚かないんだね」
「何度も向けられてるからな」
減らず口叩きながらも、何故か内心は冷静さを保っていた。
そんな俺のリアクションを、秋子さんは無表情で見ていた。
「つまんない、……死ね」
溜息交じりにそう呟いた言葉を合図に、刃物をスライドさせる彼女。
俺は静かに目を瞑る。
……だが、首元に熱さを感じない。
何故だろうと瞳をそっと開けると、茶色の毛質の物体が視界いっぱいに見えた。
まじまじと後ろ側に下がってそれを見ると、桃瀬が持ってきたテディベアの首元に白い紙にマジックペンで『ドッキリ大成功』という文字が書いてあった。
「ドッキリ大成功ー!」
「イエーイ」
楽しげに笑う秋子さんと棒読みの春矢君が俺の左側でハイタッチしながら喜んでいた。
ベッドの左側に置かれた果物ナイフは、よく見ると明らかに玩具だった。
「ねぇねぇ、正恭きゅん!
アタシ達の迫真の演技、ヤバくない!?」
「あ……、はい」
「俺達が演技派過ぎて、佐藤君の開いた口が塞がらないな」
「うんうん!
アタシ達きっといつか、ドラマの主役になれるね!」
「ハリウッドデビューも夢じゃないな」
感極まりないといわんばかりの秋子さんに棒読みの春矢君の発言を聞いてて、俺は一つ分かった事がある。
俺はどうやら本日二度目のからかいを受けたらしい。
一頻り笑った秋子さんと春矢君が「またねー」と病室から出て行こうとした。
「また学校で……」
何と無く彼等の発言にそう返すと、彼等は一度その場で立ち止まる。
そして俺に振り向きながら柔らかい笑みを浮かべて秋子さんが呟いた。
「必ず、君を守るよ」
「……?」
会話が噛み合って居ないようなその発言に些か疑問を覚えたが、俺は黙って彼等を見送った。
ようやく静かになった病室の窓の外は、相変わらず雪が降っていた。
俺は彼等が言っていた不可解な発言の意味を理解する事はせずに、静かに瞼を閉じたのだった。
春矢君は未だに窓の外を見ている。
秋子さんに至っては果物のバスケットの中を弄って林檎を取り出していた。
とりあえず何か話題を探そうと口を開いた瞬間、春矢君が物騒な言葉を呟いた。
「よく、射殺されなかったな」
「…………はい?」
聞き間違いか冗談だろうと無理矢理納得したかった。
だが秋子さんがいつの間にか俺の左耳の方へやってきていて、囁いた。
「君は凄く運が良かったんだね。
病院なんて医療ミスでも誤投薬でもそれなりに適当な理由付けりゃ簡単に殺せるんだよ?」
「あの、…………え?」
「彼を生存させる理由は、『あの人』が望んでいるからか?」
俺を置いてけぼりで何故か彼等の会話は進んでいく。
勿論物騒な言葉に拍車をかけながら。
未だに窓を見つめながら呟く春矢君に、能天気な声音で秋子さんは言う。
「彼は『あの人』にとって邪魔だよ?
今からでも間に合うよ、大丈夫大丈夫」
その言葉の後、何かが擦れる音と首元に冷たい物体を感じた。
驚いて下に視線だけ向けると、銀色の刃物……果物ナイフが俺の首元に当てられているのが目に入った。
俺はもしかしたら刃物を向けられる手相の持ち主にでもなったのだろうか。
最近は特に刃物に縁があって、正直いつか死ぬのではないかと思う。
「あんま驚かないんだね」
「何度も向けられてるからな」
減らず口叩きながらも、何故か内心は冷静さを保っていた。
そんな俺のリアクションを、秋子さんは無表情で見ていた。
「つまんない、……死ね」
溜息交じりにそう呟いた言葉を合図に、刃物をスライドさせる彼女。
俺は静かに目を瞑る。
……だが、首元に熱さを感じない。
何故だろうと瞳をそっと開けると、茶色の毛質の物体が視界いっぱいに見えた。
まじまじと後ろ側に下がってそれを見ると、桃瀬が持ってきたテディベアの首元に白い紙にマジックペンで『ドッキリ大成功』という文字が書いてあった。
「ドッキリ大成功ー!」
「イエーイ」
楽しげに笑う秋子さんと棒読みの春矢君が俺の左側でハイタッチしながら喜んでいた。
ベッドの左側に置かれた果物ナイフは、よく見ると明らかに玩具だった。
「ねぇねぇ、正恭きゅん!
アタシ達の迫真の演技、ヤバくない!?」
「あ……、はい」
「俺達が演技派過ぎて、佐藤君の開いた口が塞がらないな」
「うんうん!
アタシ達きっといつか、ドラマの主役になれるね!」
「ハリウッドデビューも夢じゃないな」
感極まりないといわんばかりの秋子さんに棒読みの春矢君の発言を聞いてて、俺は一つ分かった事がある。
俺はどうやら本日二度目のからかいを受けたらしい。
一頻り笑った秋子さんと春矢君が「またねー」と病室から出て行こうとした。
「また学校で……」
何と無く彼等の発言にそう返すと、彼等は一度その場で立ち止まる。
そして俺に振り向きながら柔らかい笑みを浮かべて秋子さんが呟いた。
「必ず、君を守るよ」
「……?」
会話が噛み合って居ないようなその発言に些か疑問を覚えたが、俺は黙って彼等を見送った。
ようやく静かになった病室の窓の外は、相変わらず雪が降っていた。
俺は彼等が言っていた不可解な発言の意味を理解する事はせずに、静かに瞼を閉じたのだった。

![[新訳]Snow Drop Trigger](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.776/img/book/genre7.png)