Snow Drop Trigger

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俺にはその光景も、スローモーションに見えた。

粉々に砕けた窓ガラスが飛び散る。

無気力な瞳で包丁を構える女児が勢い良く黒い何かに弾き飛ばされる。

そして、外の人工的な光が店内へと差し込めた。

俺が居た場所の左右の窓ガラスが割れた為、ガラスの破片を浴びる。

ガラスの破片のシャワーがきらめく中、俺は自身の顔を両腕で覆った。

塞ぎきれない手には勿論、全身に容赦無く浴びた破片は遠慮なく俺に降り注いだ。

破片のシャワーが収まるのを待ち、腕と腕の隙間からそっと現状を見る。

女児を弾き飛ばした黒い何かは、いつの間にか俺の目の前に居た。

夜光に照らされたそれは、全身を黒いローブで覆った人物。

音を立てながらローブの裾を靡かせているその人物は、どう見てもトイレで出逢った人物だった。


「まさか……」


戸惑う俺の呟きに答えるかのように、全身黒のローブを身に纏う人物は、その場で俺に向き直る。

自身の顔が隠れる程に深く被っていたフードへ手をかける。

呆気なく頭部から落ちるフードに隠れていたその人物の顔はやはり、俺の想定通りの顔をしていた。

栗色の全体的に少しだけ長めの髪を風に靡かせて居るその人物は、俺と全く同じ顔をしていたのだ。

鏡で自分を見た時のような自然さを帯びているにも関わらず、その人物の視線に違和感を感じる。

この視線…………いや、この表情の意味を俺は知っている。

彼は少なからずこう思っている。


ーー『気持ち悪い』、と。



その酷似はもはや、ドッペルゲンガーという言葉がふさわしい。

容姿も声帯も全てが同じの人間がいきなり目の前に現れたら、それは無理もない話なのかもしれない。

だがこの視線には、それ以外の感情もある気がしてならない。

しかしそれが分かれば、こんなに苦労しない。

俺がその人物を自分勝手な思考かつ主観で見ていると、その人物は唐突に何かを呟いた。


「……"ユキシズク"」


初めはただの独り言だと思っていたのだが、その考えはすぐに否定された。

その人物の呟きに答えるかのように、黒いローブを纏った人物の周りに白い物質が舞い出した。


「……雪?」


その物質は、施設の外で舞っている筈の雪そのものだった。

窓ガラスが砕けた今、窓から雪が入るのは致し方ないだろうと思うが、どうにも可笑しい。

いや、もう既にこの現状が可笑しいのだけれど。

何故ならその雪は、その人物の周りにしか舞っていない。

他のモノを一切寄せ付けずに雪だけを纏うような、そんな光景だった。

そして舞う雪は一つの部分、……その人物の首にかかっているネックレスへと集まった。

集まった雪達はネックレスのチャームへ吸い込まれるように取り込まれ、そして不意に上へと掲げたその人物の右手へと移動した。

重力を無視したそれは、白い光を放ちながら形状を細長へと変化させる。

眩い光の中、その人物がその物体を手に取った。

手に取った物体を降ろすと、それは夜光で照らされなくとも輝いていた。

それはまさに、細身の剣の形をしていた。