Snow Drop Trigger

「えっ…………」


状況が一瞬理解出来なかったので、ここで少し整理してみよう。

俺はただこのネックレスを探す為にこのゲームセンターに帰って来ただけで。

そこでネックレスを見つけて一安心していたら、後ろから音がした。

後ろに居た女児は、何故か包丁を持っていて、俺に襲いかかって来た。

……これって結構やばくないか?


「えっ、やべぇじゃん……!」


慌てて突進を右に避けたのは良いが、携帯端末を地面へ落としてしまった。

落下した携帯端末の光がいつ消えてしまうかは分からない。

だがその光が消えてしまえば退路が絶たれる。

退路が絶たれれば、爆破予告通りに粉々にこの建物は破壊される。

だから今は、光が消えてしまう前に携帯端末を取り戻さなければならない。

刃物を持った女児が何処に居るのか分からない状態で行動するのはかなり危険だが、退路を絶たれる方がもっと危険である。

俺は光が消えてしまわない内にと、携帯端末へ手を伸ばした。

幸いな事に、手の届く場所に落ちていた。

そして手に取って光で辺りを照らすと、銀色の光を視界に捉えた。

驚きが上回ってしまい、上手く立てずにそのまま地面へ倒れる俺。

痛みを感じていたいが、そんな暇は無い。

どうやら女児は俺が立ち上がるのを許してくれないようだ。

慌てて銀色の光の見えた方向へ携帯端末の光を向ける。

すると、虚ろな瞳で此方を見ている女児と目が合った。

学校帰りなのかは定かではないが、白いニットソー素材のブラウスと黒いプリーツのスカート、そして黒いブレザーを着用している。

だがやはり、銀色の光が異様な違和感を醸し出していた。


「……危ないぞ、その刃物」


言葉にして分かってくれる相手では無い事は分かるのだが、微かに希望を持ってしまう。

だがその希望さえ絶たれてしまうのは、もはや時間の問題。

詰め寄る女児と距離を保ちたいが、とうとう俺の背中は何かにぶつかってしまった。

もはや壁なのか窓なのかモノなのかすら分からない。

何故なら、窓から差し込める筈の光さえも遮断されているのだから。


「追い詰められたか……」


何故、こうなってしまったのか。

今日は確か、俺の誕生日で。

小一時間前まで騒いでた平凡な日常がバラバラに崩れていく。


「……死にたくはないな」


女児に殺される願望なんて誰が得をするのか。

少なくとも俺は得をしない。

後、嬉しくも無い。

詰め寄る女児の手に握られる刃物が、俺に振り上げられた。

死ぬ前は物事がスローモーションに見えるというが、どうやら本当のようだ。

振り上げられる銀色の光がスローモーションになっている。

そんな中、死ぬ事をぼんやり考えている俺。

俺と刃物が数cmの距離になったその瞬間、奇跡が起きた。



ガラスが砕け散るような激しい破壊音。

それと共に光と、彼はやって来た。