Snow Drop Trigger

光と言える程のものでも無いが、無いよりはマシだ。

この暗闇に慣れていたからか、灯りを見た瞬間に眩暈が襲う。

だがそれも、慣れれば問題無い。

今はそんな事よりも、この建物から一刻も早く出なければならない。

店内の照明は勿論、非常灯のランプすら機能していない。

事故だと過程しても館内放送すら無いこの状況は、人々をさらに恐怖や焦りといった負の感情へ陥れるだろう。

ぼんやりと暗闇を照らす携帯端末の光が辺りにちらほらと出始めた時、涼弥の姿を見つけた。


「涼弥」

「ま、正恭ぁ……」


半分涙目の涼弥の姿が携帯端末の光で映し出される。

彼女も携帯端末を光として使用しているが、当たり前の明かりが無いだけで状況がこうも一変するとは。

それは、光に依存しきっていた俺達への罰のような気がした。

仕方無いと言えば仕方無い事だが。


「康介」

「俺は大丈夫。桃瀬も居るから」

「正恭ぁ、無事ぃ⁉
怖いよー、うわあああん!」


一人、盛大にパニックになっている桃瀬を宥める康介。

二人は見つかったから、後は悠太と亜衣か。

悠太と亜衣は多分一緒に居るとは思うが、近くには居ないようだ。

……というかいつの間に桃瀬は康介の近くに瞬間移動したんだろうか。

確か悠太や亜衣と、お菓子の積まれたクレーンゲームの場所に居た気がするのだが。


「正恭」

「その声は……、悠太か?」

「亜衣も、居る」


桃瀬の叫び声を聞いて辿り着いたのか、案外早く合流出来た。

携帯端末の光が交差する中、亜衣の携帯端末の光が非常口の看板を捉えた。


「見て、 非常口だよ!」


亜衣のその言葉に少しだけ安堵した。

非常口へと近付くと、段々と人とぶつかるようになってきた。

その時唐突に、首元に違和感を感じた。

その違和感に気付いた瞬間、頭から血が引いていく音がした。


「康介」

「正恭、何処だ?」

「忘れ物した」

「そんな事言ってる場合……じゃない……だろ!」


非常口へ進む康介達と、その場で立ち止まる俺。

距離が開き声音が途切れ途切れになるが、康介の言いたい事は分かる。

だが此処でアレを探さなければ、とても後悔すると思う。

プレゼントで貰ったからという事もあるのだが、何よりアレは無くしてはいけない気がしてならないのだ。

それが、無性に嫌だった。

俺は非常口を背に、館内へと足を進めた。

するとそれを見計らったように、皆が待ち望んでいた館内放送の音楽が鳴り響いた。