Snow Drop Trigger

「こ、怖がってないよ!
ちょっとビックリしただけ!」


そう言ってチラッと俺を見る涼弥。

だが、俺と視線が合った瞬間に目線を逸らした。


「正恭、どうかしたのか?」

「え、……あー」


康介に突然話を振られたのに対し、若干しどろもどろになる。

何故ならあの一件をどうすれば上手く説明出来るか、パッと浮かばなかったのだ。

話しても、信じて貰えるかどうかすら分からない。

かと言って、言わなければ信じてすら貰えない。

……もどかしい。


「似たような人を見たんだ」

「何だそりゃ。
とうとう正恭が中二病を発症したのかと思ったよ」

「悪かったな」


やはり、信じ難いよな。

似てるを超えた存在がいきなり目の前に現れた。

そんな出来事をすんなり信じれる方が少数だという事ぐらい理解している。

だからこそ、信じ難くて当たり前なのに、信じて欲しかったと内心で思ってしまった。

矛盾すぎる思考に浸っていても仕方無いと一区切りしようと深呼吸する。


目を閉じる。

息を吸う。


ただそれだけで、あんなにも騒がしかった店内が静かに聞こえる。

そう、静かに…………。


「……?」


可笑しい。

息を吐きながら瞳を開けると、其処は真っ暗で。

色とりどりのライトや音楽が交えていたその場は、一瞬にして姿を変貌させていた。

静まる音楽、消えて真っ暗な店内。

隣に居た友人達や、店内にいる人々すら見えない。

しかそ、その光景に対してパニックになった人々の大きくなるざわめき声に、不安と恐怖が一気に掻き立てられる。


「康介、涼弥」


恐怖を煽らないように出来るだけ冷静に友人の名を呼ぶと、聞き慣れた声が聞こえた。


「正恭、何処に居るの?」


震えているような声音の涼弥を手探りで探す。

そして人の感触に手が触れた時、また聞き慣れた声が聞こえる。


「うぉっ‼」

「すまん。これは康介か」


どうやら俺が触れたのは康介だったらしい。

灯りの無い店内で無闇に動くのは少し厄介になる。

俺はポケットに入れていた携帯端末を手に取った。

しかしその刹那、俺達を大きな揺れが襲った。

地面が不安定になっていく振動に、位置や正確な状況が確認出来ないこの暗闇は、人を陥れる絶好の機会。

辺りから沢山の人々の悲鳴と困惑の声が聞こえる。

まずは避難経路を探さなければ。

俺はポケットから携帯端末を取り出してぼんやりとした光を暗闇へ作り出した。