Snow Drop Trigger

※ ※ ※ ※ ※


「あーっ!
また落ちたぁーっ!」


桃瀬の大声さえも普通に聞き取りにくい此処は、色々なゲーム機械のBGMが耳に届くゲームセンター。

どの機械からも発せられる爆音に、耳を塞ぎたくなる。

そんな中、俺達はとあるUFOキャッチャーに張り付いていた。


「桃瀬、もう少し左。
さっきから右に寄り過ぎてるぞ」

「えぇー、難しいよぉー!
涼弥ぃ、取ってーっ!」

「無理よ。
そういうの私、下手だもの」


康介のアドバイスに悶絶する桃瀬は、涼弥へと助け舟を求める。

だが涼弥に呆気なく拒否された。

桃瀬はUFOキャッチャーの中の、猫の縫いぐるみがどうしても欲しいようだ。

それを見兼ねた康介が苦笑しつつ桃瀬の横に入り、100円を投入する。

あれよあれよという間にクレーンが猫の縫いぐるみへと降りていき、そして取りだし口へと現れる。

猫の縫いぐるみを早速取り出す桃瀬は、子供のようにはしゃいでソレを抱き締めた。


「凄いね、康介」

「あー。別にそんな凄くないよ。
俺、クレーンゲーム苦手だし」


亜衣の褒め言葉に対してそう笑いながら言った康介は、桃瀬を見て柔らかく笑った。

俺は、桃瀬を柔らかい笑みで見つめる康介の耳元で言った。


「青春っすね」

「そうか?
じゃあ、青春という事で」


桃瀬はというと猫の縫いぐるみを抱きながら、お菓子の沢山詰まっているクレーンゲームを見ている悠太の元へと走ってソレを見せていた。

悠太はそれを見て、お菓子の沢山詰まっているクレーンゲームへ今一度、目を落とした。

俺はUFOキャッチャーの横にあるベンチへと座ると、康介と涼弥が隣に座り出した。

ベンチから悠太と、駆け寄って行く亜衣、そして猫の縫いぐるみを持った桃瀬を俺はぼんやりと見ていた。

何も考えたくないとは思っていなかったが突然、先程のトイレの一件が頭に浮かび上がった。

何故、今この状況下でソレを思い出したのかは謎だが。


「ドッペルゲンガーってさ」

「ドッペルゲンガー?」


その呟きに初めに反応したのは、俺の右隣に座っている涼弥だった。

涼弥はキョトンとしながら俺の会話の続きを待っているが、それを遮るように康介が言った。


「ドッペルゲンガーに会ったら死ぬとかよく言うよな」

「しっ、死……⁉
そ、それって都市伝説でしょ?」

「それは俺も同感。
涼弥も怖がらなくて大丈夫だぞ」