Snow Drop Trigger

前を向けば、鏡に映る自身と視線が絡み合う。

小さいながらも存在感を主張する雪の結晶がアクセントのネックレス。

それを付けた俺自身に、何故か懐かしいという感覚があった。

今までネックレスをあまりつけたことが無いのに、何故こんなに懐かしく感じてしまうのか。

苦笑していると、左端から右端へと黒い影が確実に見えた。

有り得ない状況に三度も遭遇したのだ。

俺は直様振り返りリュックを無造作にからって、視界に捉えた黒い影を追いかけた。

トイレを出るとすぐに、店内に出る通路の前を走る黒い影が居た。

黒い影というよりも黒くて長い衣類を着用しているその人物は、店内へと入ろうとしていた。

全身黒尽くめの恰好で店内に入ると警備員と鬼ごっこしないといけなくなるのに、その影は止まらずに走り続けていた。


「待て!」


中々走りながら言葉を紡ぐ事が出来なかったがようやく静止を声に出せた。

その刹那、黒い人物から小さく輝く何かが俺の方へと落ちてきた。

黒い人物から目線を外して床へ落ちた落下物を拾い上げると、それは見かけた形の物だった。


「これ……」


まじまじと見る時間も無く、目の前に人の気配を感じた。

ふと顔を上げると、あんなにも離れていた距離から一瞬で移動して来たのか黒い人物が俺の眼前へ立っていた。

息を飲む俺の手から引っ手繰るように奪った黒い人物は、首へとその落下物を持って行ってネックレスをするような仕草をして踵を返した。


「待て!」


人が物を拾ったのに御礼も無しなのかと場に合わない怒りを覚えた俺は、黒い人物の身に纏うフードを手に掴んだ。

するりと呆気なく顔を隠していたフードが外れた。

そして俺は、見てしまった。


「えっ…………」


何だ、これは。

そう言いたかったのに驚きが上回って上手く言葉が出ない。

何故ならそこに居たのは……。


「いい趣味だな。
人の服を無理矢理掴むとは」


皮肉めいた相手の言葉でようやく我に帰った俺をよそに、その人物はフードを被り直して店内へと消えてしまった。

追いかける気はあった。

ただ追いかけるより先に、思考回路が上手く働かなかっただけで。

あの人物の顔に、とても見覚えがあったのだ。

そう、それは……。