Snow Drop Trigger

『Snow Drop』。

アクセサリーから携帯端末等、『日常における全ての物を便利に』と言うコンセプトの大企業。

この世界でこの企業の名を知らぬ者は居ないぐらいに有名な企業だ。

ちなみに俺は勿論の事、康介やこの世界の人口の約9割以上が『Snow Drop』製の携帯端末、『Snow phone』というスマートフォンを所持している。

雪の結晶と雫マークのロゴは今や、至る場所で見受けられる。

橙と水色のリボンを解き箱を開けると、真っ白なクッションのような物の上に雪の結晶のチャームが見えた。

その下方に微かに見えるチェーンを指で摘まんで引き上げてみた。

それは銀のチェーンと雪の結晶の、小さいけれど存在感のあるチャームがアクセントのネックレスだった。

俺は早速それを付けようとして下を向いた瞬間、小さな足音がした。

慌てて前を向くと、入口側へと影が移動したような気がした。

勢い良く振り返ってみるも、影はおろか、人すら居なかった。


「気のせいか?」


呟いた言葉に、返事は無い。

もしかしたら大量のファストフードのせいで食べ疲れて幻覚でも見てしまったのでは無いか。

と、勝手に結論付けた俺はネックレスのカフスを外す為にまた下方を向いた。

その刹那、今度は人が通る時に起こる微かな風圧を感じた。

カフスの外れたネックレスをしっかり握りつつ顔を上げるが、右端へと消える影しか見えず、後方を振り返るが誰も居なかった。

入口から人が入って来たとしたら、風圧が来た時に鏡に映るのは左端に向かう人影の筈。

トイレには俺だけしか居ない。


「…………」


手に少し滲んだ汗に対して、思考がその状況を否定しようとしている。

幽霊を信じる訳では無い。

単純に気味が悪い。

俺はネックレスをすぐさま首へと持って行き、後部でカフスを上手く付け合わせた。