バイナリー・ハート 番外編



 その後ろにチラリと見えた頭の先に、ランシュは一瞬ギョッとした。

 想像していた姿と、全く違っていたのだ。

 刑務官が壁際に移動し、後ろから姿を現した初老の女性は、燃えるように鮮やかな赤い髪をしていた。

 伴った刑務官に会釈をしてこちらを向いた彼女は、ランシュの姿を認めて少し目を見張り、そして穏やかに微笑んだ。

 意志の強そうな鳶色の瞳に太い眉。
 健康的な褐色の肌。
 色素の薄いランシュとは似ても似つかない。

 自分とはあまりにも違いすぎる彼女の容姿が、この人の遺伝子を一切受け継いでいない事を如実に物語っていた。

 なんと言って声をかけよう。
「はじめまして」でもないし、記憶にないのだから「お久しぶり」も変だ。
 言葉を探してランシュがためらっている隙に、彼女が口を開いた。


「こんにちは。大きくなったわね」