「ちょっと待て。なんでおまえがあいつのプライベートを知っている?」


 先生が素の副局長を知らない事は承知している。
 案の定、おもしろいほど動揺した。

 先生は仕事の上でしか副局長と接した事がない。
 けれど局員になる前のランシュは、仕事以外で接する事が多かったのだ。

 子どもが相手だからか、副局長も今のように堅い印象はなかった。

 先生は眉をひそめて、恐る恐る尋ねる。


「もしかして、あいつも笑う事があるのか?」
「よく笑いますよ。当たり前じゃないですか」


 あえて過去形では言わずにおく。


「信じられない!」


 とうとう先生は頭を抱えた。

 そこへ研究室の扉を勢いよく開け放って、噂の副局長が怒鳴り込んできた。


「局長! いつまで放置なさるつもりですか! 昨日の分もまだ片付いてないでしょう」

「フェティ! おまえは、そんなきれいな顔で、どうしてオレには怒ってばかりなんだ!」


 動揺したまま脈絡のない抗議をする先生に、副局長は涼しい顔で返した。


「あなたが怒らせるからです。さっさと仕事を片付けてください」


 先生は一瞬絶句して、ブツブツ言いながら、副局長と共に研究室を出て行った。

 二人を見送ったランシュは、ひとりクスリと笑う。
 そして再び思考を分割すると、仕事をしながらあの人の事を考え始めた。