情けない顔で悪かったな。人より少し、眉毛が下がっているだけだろ。
そう僕が相手のいない突っ込みを終える頃、予鈴と共に千代が教室に戻って来た。顔からはみ出しそうなぽってりとした唇を見せつけて、また僕にポーチを押し付けようとする。素早くそれを避けるカッコイイ僕。
「タケイチ、きもーい」
キモいとはなんだよ。根拠のない悪口だ。
僕のムッとした顔を見て、千代は愉しげだ。栗色の巻き毛がくるくると跳ねた。
千代なんて古風な名前なんだから、昔みたいにお下げにすればいいのに。お下げの頃の千代はまだ可愛かった。綺麗な黒髪に、天使のリングだってできていたんだ。
僕の小さい頃の思い出にはいつも、千代がヒロインとして登場している。千代、千代、千代。どの時代を取っても千代ばかりだ。今だってそうなのに。けれども千代の思い出には、サワヤカボーイや、その他の男子がさりげなく登場しているに違いない。僕なんかはきっと、常に千代の周りをうろついている羽虫か何かの様に存在しているのだろう。

