「あ、みちよ」
「みちよじゃない。お母さん」
開店前の、ジーンズ姿のみちよだ。
黒のシンプルなトップスにスキニージーンズ。黒く長い髪は緩くウェーブがかかっていて、小さい顔が引き立っている。手足も長い。40才でこんなにジーンズを格好よく履きこなせる女を、僕はみちよしか知らない。母親ながら、スタイルはかなりいいと思う。この遺伝子がなぜ、僕には受け継がれなかったのだ。僕がみちよに似ている所と言えば、勉強ができない所と人懐こい所くらいだろうか。あと足がデカい所。親子で靴を探すのに苦労するんだ。
そうして、みちよは自分の美しさを知っているような立ち振舞いをする。颯爽と歩く姿はモデルみたいだ。ただ、何度も言うようだが酔ったみちよは本当に酷い。その酷さを知っているのは、おそらく僕と死んだ父さんくらいだ。
「仕入れ?」
僕はヘッドホンを外し、みちよが両手にぶら下げていた買い物袋を持ってやる。
「今日はね、茄子の揚げ浸しをするのよ」
「僕の夕飯?」
「あんたの夕飯は昨日のカレー」
またカレーか。ウマいけど。

