なに。なにローストビーフって。作れるわけがない。
溜息混じりに凛に答えれば、凛がだらだらとした口調であたしに言った。
「なんでもいい」
「じゃあカレーね」
「え。それ前も食った」
「なら食べなきゃいいんじゃない」
後ろから「冷てー」不満を漏らす凛は無視しておく。
ローストビーフは無理だし。だったら作れるものを作る。
それが嫌なら帰ってくれて構わないのに。ああもう、凛って扱いが面倒だから困る。
「なあ。具材、大雑把に切るなよー。友梨がさつだから」
「がさつですけど何か」
「キレんなよ」
「キレてない」
テレビでも見て大人しくしててくれないかな。まあそれを言ったところで凛は聞き入れもしないだろうけど。
冷蔵庫から取り出したカレーに入れる具材をまな板の上に転がして、ざくりと適当に包丁で切っていく。
ざく、ざく、ざく。
音がキッチンに響く。残念ながら凛に言われた通りにがさつに切られていく具材。
「…」
不器用なのだから仕方がない。自分に言い聞かせながら包丁を持った手を上下させる。
ざく、ざく、ざく。
「友梨指切るなよー」
「…凛テレビ見てていいよ。大人しくしててくれた方がやりやすい」
「おいおい、心配してやってんだろうが」
「切らないから大丈夫だよ」

