あの時、わたしはこの匠とそっくりの彼に恋をしていた

どうしても叶うことのなかったその恋に未練を残したが故に、今の匠との関係があるのだ


そうあの時、彼、

”伊藤 柚希(イトウ ユズキ)”とこうして密かに、

いや自由に交わることが出来ていたなら・・・・

もう何もかも遅い、遠い遠い昔のよう

叶わなかったゆめ物語



だけど

なんの疑いも持たない匠を、今日もあの頃の柚希としてわたしは抱いている

それは偽りのない現実なのだ



「李生、愛してる」何度もそう言いながら

匠は微睡みの中に瞼を閉じる



「わたしも愛してる、ユズキ」


そっと真実を口にしてみる



それで何もかも壊れても


わたしに失うものは何もない



匠の耳にはもはや真実は届いていない、それを見届けると衣服を纏い、李生はそっと部屋を後にした