#6

さわさわと木々が重なり合った影を揺らしている

通り過ぎるものは誰もいない

闇は確実に近づいている



匠のブレザーに飛び込んだ瞬間、淡いソープのような、それでいて若い青葉のような匂いが李生の鼻をついた


なんて華奢なからだなのだろう

その頼りなげなからだを李生は抱きしめた



「・・・・どうしたの、急に。なんかあった?」

戸惑い気味に匠は言った

李生は、ううん、とただ首を横に振った


「・・・うそ、だって外でこんなこと絶対しないじゃん」


その言葉に李生は黙ってしまった

あんなに人目につかないように今まで気をつけてきたのに


ただ柚希と会えなかっただけで

ただ高校時代の嫌な思い出を思い出しただけで

ひとりで立っているのがとてもとても怖くなった