「・・・・(何)も、ない、です」


何もないはずはないのに、そう言うのが精一杯だった

陰湿な嫌がらせは、他人に言うには恥ずかしいぐらいの幼稚なものだった

だがそれを受け続けることの苦痛は、死をも考える日々だった

そのことを思い起こすと、涙で言葉が詰まってしまう


湧き出る温かな涙

わたしの皮膚はこんなにも冷え切っていたのか

薬品の匂いが染み込んだ理科準備室の一角

なぜこんなところで、坂野に告白したかわからない

だけど、このタイミングを逃したら、わたしはどうしたらいいかわからなかった



「李生・・・・」



坂野はわたしが落ち着くまで、そっと付き添ってくれた

本当はせっかく入った学校を辞めたくはなかった

辞めてここから逃げてもダメだとわかっていた


坂野はわたしが学校を辞めずに済むように、これからも相談に乗るからと優しく言ってくれた

誰にも相談できなかったわたしに、坂野は一筋の光のように思えた