「受験も迫っているし、咲子さんが焦る気持ちはよくわかります。
でも、もう少し息子さんの話をよく聞いてあげることは出来ませんか?

今まで咲子さんの言うことをよく聞いていたいい子だったんじゃありませんか?
それがようやく自己主張できるようになったって考えれば、子供の成長じゃないですか。

それにね、俺は咲子さんの方が心配ですよ。今にも倒れそうな顔色だ。ちゃんと休めてますか?」



政宗は咲子に優しく語りかけた


「政宗くん、、、、誰もそんなこと言ってくれないわ。主人だって、、、」


「咲子さんは、昔から凛としていて、なんでもきちんとしてた。
でも、それってすごく疲れるんじゃないかって俺は思ってました。

咲子さん、俺は聞くしかできないけど、いつでも話し相手になりますよ」



咲子はようやく顔を上げた

疲れ果てて落くぼんでいた瞼も、少し元気を取り戻したようだった


「ありがとう、、、政宗くん。柚希にも、こんなこと相談出来なかったから。
ごめんね、ホント。正宗くんに甘えちゃうなんて、こんないいオバサンなのに馬鹿ね」


「咲子さんは今でも、とても綺麗で素敵な女性ですよ。
もし、あの時俺がもっと大人だったら、咲子さんを選んでましたよ」


”あの時”とは、咲子が意を決して政宗に告白した日のことだろう


「クスッ、政宗くんたら、噂通りのイケナイカフェのオーナーね。女性のお客を掴んで離さない訳がよくわかったわ」


咲子は小さく笑った
そこには少しドキリとした気持ちを隠す大人の顔があった


「クスッ。イケナイカフェのオーナーじゃないですよ、俺は。カフェクレナイのオーナーです。
少しは元気になってくれましたね」


「ええ、とても」

咲子は口元に笑みを浮かべてようやく、カフェのメニューを辿りだした