#18



李生の去ったcafe Kurenaiは、いつもの静けさを取り戻していた

そこに40代前半の女性客がひとり、うつむき加減で政宗と話をしていた

柚希の姉であり、匠の母親の咲子である



咲子が柚希と来る以外に、ひとりでここに来たのは初めてのことだった

まだ若かったとは言え、大人だった彼女が弟と同じ歳の少年に恋をしていた訳で、今更過去を引きずるなと言われても、なかなかひとりで訪ねるなど出来なかったのだ


なのに、ここにいるのは、今の咲子に政宗以外相談できそうな相手がいなかったからだ




「・・・政宗くん、わたしわからないの。匠にとって、一番いいと思った方法をとっただけなのに、前よりずっとひどい状況なの、、、」



咲子が言うには、匠は李生の後に頼んだ家庭教師とことごとく衝突して、全く続かないと言う

塾に申し込んでも、行く気配もなく、ならどうしたいのかと聞くと、”受験はもうやめた”と返ってくる

家には、瑠璃という同じ学校の女子生徒をよく連れてきて、ふたりで何やら親しげな様子

父親に何とかしてくれと頼んでも、全く相手にしてくれず、一切を自分ひとりに押し付けられて、もうどうしたらいいのかわからないと、今にも倒れそうな青白い顔で咲子は切々と語った