そう、あの頃も


”わたしには、なにもなかった”


自分を守るすべも、なにも



ポツポツと、大粒の滴が

頭皮の中に入っていく

むず痒いようなその感覚


溢れて頭皮に染みることがなかった滴が

こめかみから流れてくる


ああ、そんなにも流れないで

わたしの中からも

雫が零れそう


ああ、でもいっそこのからだごと濡らしてしまって

そしたら

わからないでしょ

このわたしが泣いているなんて


からだから流れてくるものと

外から打ち付けて流れてくるものの違いはわかる

だって頬を伝う雫だけは

温かいもの


李生はその場に蹲った

その雫が冷えてしまうまで

じっとそこで

いっそ、自分が凍えてしまえばいいのにと



李生はふと

ひとりの名前を思い出した



・・・・志紀(シキ)先輩



頭の中でその名前をそっと呟いた



あの時わたしを助けてくれたのは

あなただけだった



なにもなかった

なにも守るすべをもたなかったわたしを

守ってくれたのは


先輩、あなただけだった




今、どこにいますか・・・・




志紀先輩

わたしは今度

どうやって

ここから立ち上がればいいですか・・・・