李生はしばらく、切られた電話を耳から外すことが出来ず、ただ通話の切れた音を呆然と聞いていた



確かに傷つけるつもりだった

受験さえ終われば、別れるつもりだった

でもこんな形で終わりたかったわけじゃない

匠の受験を邪魔するつもりも

こんな形で世間から傷つけられるようにしたかったわけじゃない



わたしはいい

わたしはどんなに傷つけられたって

そうやって生きていくことなんて、今まであったことから比べればなんともない


だけど、あんなに無垢で

あんなに素直な匠を

わたしはなんて酷い傷つけ方をしてしまったのだろう


今更、自分がしたことの重大さを知った

ただ、とても好きだった人に似ていただけで

ただ、その好きだった人に似た匠が、わたしを好きになっただけで

こんな結末を願っていたわけじゃない



いつの間にか、空は暗く、雷が遠くで鳴っている

時々稲妻が光っては、その暗さを際立たせた

どのぐらいここに立っているのだろう

そう長いことではない気がするが、もう時間などどうでもいい



”わたしには、なにもない”



匠を失ったら

今のわたしには

なにもなかったのだ