松子さんは引退した獣医さんで、病院を息子さんに譲って、アイちゃんと二人でここで暮らしてるのだという。


「まあ、このシェルターは道楽だよ」

松子さんはカラカラと笑って言った。

「ここはあたしの実家の跡でね、あたしの父親ってのも道楽みたいにここで牛飼いをしてたのさ」


「あたしもね、獣医さんになるんだ。それから要ちゃんの奥さんになる」

アイちゃんは要さんにしがみついて言った。


はいはい

盗らないわよ


「お前が獣医になる頃にゃ、要は中年親父だよ」

松子さんが容赦なく言った。


「中年親父だっていい!」


「モテているんだか、けなされているんだか、分からんな」

要さんは苦笑した。



その後見せてもらった犬や猫は、どの子も人懐っこくて可愛いかった。


要さんのおすすめは、白い靴下を履いたような黒い子犬だった。


「豆柴と何か分からない奴のミックスだ。トイレの躾もできてるし、吠え癖もないから育てやすいと思うよ」