廃ビル奥、幽の部屋ー

「適当に座って」

殺風景な部屋に入ると、五十嵐は窓付近に座った。俺も近くに座った。

ひび割れたリノリウムに、割れたままの窓。亀裂が入り、断熱材がむき出しになっている部屋はいかにも廃墟と言う雰囲気を醸し出していた。

「今日の用件は?」

五十嵐が首を傾げながら尋ねる。

「簡単に言えば、雪羅さんを1日貸してほしいんだ」

俺はついに決断をしたのだ。雪羅さんに思いを伝えると。

五十嵐は顎に手を当てて考え始めた。暫くして、何かを思い付いたかのような表情になった。

「これに行けばいいんじゃない?」

五十嵐が部屋の隅に落ちていた紙を渡した。それはこの町の花火大会のお知らせについてのものだった。

「これかー……」

「私は鬼灯と行くから雪羅と行ったらどうかな?」

俺はしばらく考えたのち、微笑みながら頷いた。