4月に入ったある日の事だった

いつものように店頭で接客をしていると
暇だった店内に若い女の子が入ってきた

「あのぉ、こんな感じのアイシャドウとかアイライナーとか欲しいんですけど」

その子はバッグから雑誌を取り出して私に開いて見せた

それは、ヴィジュアル系のバンドの特集のようで
黒いシャドウでハッキリした切れ長の目の男の子が載っていた

ビックリした

それは、リクちゃんだった

「このバンド・・・デビューしたんですか?」

思わず、聞いてしまった

「あ、そうですよ!お姉さんも好きなんですか?正直、メジャーデビューしちゃってショックですけどねー」

リクちゃん、デビューしたんだ・・・

私は、驚きをなんとか隠しながらその子をメイク用のイスに案内した
自分の鼓動が苦しい程に早まるのを感じていた

「このアイメイク、私どうしてもできなくて。切れ長ってどうやればいいんですか?」

私にケープをかけられながら
その子が質問を投げ掛けてくる

写真のリクちゃんは
私が教えたメイクをしていた

「じゃ、片目からやってみますね」

私は、あの日リクちゃんに教えたように説明をしながらメイクをしていった

その子の目元が徐々にリクちゃんの目に、変わっていく

幅広くなるべく大きく見せてるリクちゃんの目元と
髪に合わせて色を変えてるリクちゃんの眉と
バレないように入れてるノーズシャドウと
丸顔をシャープに見せるためのシェーディング
そして
元々、きれいな形をしてる唇

リクちゃんの柔らかい唇

私の知ってる本当のリクちゃん

私の、
大好きなリクちゃん

リクちゃんに
会いたい・・・

「すごーい!リクが居る!」

鏡に映ったその子は
リクちゃんの顔で喜んでいる

私の心は震えていた

お会計を済ませて
彼女が帰っていくのを見届けてすぐに
トイレに駆け込んで泣いた

リクちゃんに会いたくて
でもどうにもならなくて
こんなに哀しいのは
生まれてはじめてだった