君はボクの天使?

「何か食べるか・・・」

ウェデングサロンを出たのは
お昼近くだった

「うん」

私達は近くのイタリアンに入った

オーダーをすませると
トモがタバコに火をつけながら言った

「お前さぁ、何か結婚式のイメージとか無いの?」

「え?」

ちょっとだけトモは苛立っているみたいだった

「結婚式って、女の子が主役じゃん?色々やりたい事があるのが普通なんじゃねーの?」

私は、黙っていた

今は仕事が忙しくて、とか
もっと情報を集めてからゆっくり考えたい、とか
言い訳もいくつか頭をよぎった

でも
なんだか
話す気持ちが沸いてこない

そのまま会話もないまま
私達は食事をした

それは
今までトモと食べた中で
一番、味の分からない
食欲の沸かない嫌な時間だった

こんな時に限って
リクちゃんとの楽しかった思い出が
蘇ってきてしまう

トモと長年かけて作ってきた
2人だけの空気感が
歪んでいくのを私は感じた

もう、限界だった

「トモ・・・」

トモが私を見る
この整った顔が大好きだったけど

「ごめん、やっぱり、結婚できない」

「は?なにそれ」

トモの表情が険しくなっていく
怒ると怖いのは知ってるけど
私は自分を止められなかった

「別れよう」

「お前、きゅうに何なの?」

「別れたいの」

私は
壊れた機械のように
それを、何度も言ったと思う

もう、なんとしても別れたくて
仕方なかった
リクちゃんの所に行きたくて

「何で!?」

バンッと大きな音を立てて
トモがテーブルを叩く

「他に好きな人が居るの」

ついに、言ってしまった

「お前、最低だな!」

トモはそう言うと
伝票をつかんで音を立てて立ち上がり
店を出ていった

『最低』という言葉の余韻と
トモと過ごしてきた思い出が
私の中で蘇っては

次々とシャボン玉のように消えていく

そんな感覚に襲われて
しばらく私は
その場を動けなかった