舞い散る花の導く先に

すこし離れた場所で腰を落ちつける。

呉「穏やかだなあ・・・」

まるで日頃命を狙われていることや、死と向かい合わせで生きていることを忘れるぐらい穏やかだ。

今だけは雅のことや前世のこともすべて忘れていたい。

私はまた小唄を口ずさむ。

みんながほめてくれたから少しだけ自信が持てる。

私の声は誰かの心に届きますか?

すると不意にがさっと音が鳴る。

呉「だれ?」

立ち上がり振り返ると男の人が立っていた。

長身で涼やかな瞳。だけどその奥に強いものを感じさせるひとだ。

「これは失礼。あまりにも綺麗な歌声だったので。」

呉「ありがとうございます」

私は気恥ずかしくてはにかむ。

呉「あなたはどちら様ですか?」

「私は桂小五郎、と申します。」

呉「桂小五郎・・・さん・・・」

桂「はい。実はこの近くで花見をしていたんですよ。だけど少し抜け出してきたんです」

呉「まあ。私もなんですよ」

桂「これは奇遇ですね」

そういって二人で微笑みあう。