舞い散る花の導く先に

呉「今日、信長様に逢いましたの」

沖「うん。知っているよ」

呉「本当は、わたくしが話したかったんですのよ」

すこし残念そうに微笑む。

沖「君と呉羽ちゃんは同じ魂を持っているんだから同じじゃないの?」

すると濃姫は少し考えているようにうつむいた。

呉「何と言ったらよいのでしょうか・・・確かに私と呉羽は同じ魂を持っています」

そしてまたゆっくりと言葉を紡ぎだす。

呉「しかし、同じであって同じではないのです」

沖「同じであって、同じでない?」

呉「ええ、呉羽が信長様を覚えているのはこの体が信長様を記憶しているからですわ」

沖「体が?」

呉「そう。姿は違えど同じ体。だから呉羽が覚えている信長様は私が前世で得た体の記憶なのですわ」

僕は黙って濃姫の話を聞く。

呉「だけど、気持ちは違います。同じ魂であっても、考え方も感じ方もすべて違うのです。つまり私は魂の記憶なのです。魂が覚えている、過去でしかないもの。そこが、同じであって同じではない部分。」

沖「どうすれば君は本当の濃姫にもどれるの?」

呉「今のように体と過去の記憶が一致すれば本当の前世の私にもどれます」

沖「次に会うときは完全な君にもどれるといいね」

呉「ええ、呉羽は信長様と明後日、逢う約束をしています」

沖「明後日?」

呉「はい、だからまたあの桜の木に行くでしょう」